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東京地方裁判所 平成9年(ワ)13508号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 高橋達朗

右訴訟復代理人弁護士 多良博明

井上康知

山崎真紀

被告 X株式会社(以下「被告会社」という。)

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 古笛恵子

被告 C(以下「被告C」という。)

右訴訟代理人弁護士 横山哲夫

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金七四一万九九七八円及びこれに対する被告Cは平成五年六月二八日から、被告会社は平成九年七月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの負担、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金三三九七万九一三六円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告会社の経営するスイミングスクールの会員である原告と被告Cが室内プールで水泳練習中に衝突した事故につき、原告が、被告右渡に対しては不法行為、被告会社に対しては債務不履行(安全配慮義務違反)に基づいて、各自損害金三三九七万九一三六円及びこれに対する事故の日である平成五年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求めている事案である。

一  前提事実(特記しない事実は争いがない。)

1  被告会社は、室内プール等のスポーツ施設の経営等を目的とする株式会社であり、川崎市麻生区万福寺一丁目一一番二七号所在の七コース、二五メートルの室内プール(以下「本件プール」という。)を開設して「川崎イトマンスイミングスクール」という名称のスイミングスクール(以下「本件スクール」という。)を経営している。

原告(昭和一六年一二月一四日生)は、昭和六二年七月、被告会社との間で本件スクールに入会する旨の契約を締結して、本件スクールの会員となった者である。

原告と被告Cは、平成五年六月当時、本件スクールの会員として「婦人マスターズクラス」という上級者クラスに所属していた。

2  平成五年六月二八日、本件プールにおいて、本件スクールの「婦人マスターズクラス」の練習が行われ、これが午後〇時半ころ終了した。右練習の後半では、間近に迫った日本マスターズ水泳協会競技会に向けて、専任コーチのD(以下「Dコーチ」という。)の指導の下に、スタート台からの飛び込み(スタート)の練習が行われた。

右のとおり正規の練習が終了してDコーチが引き揚げた後、原告、被告C及びE(以下「E」という。)を含む一部の会員が居残り、別のクラスの練習が始まるまでの時間を利用して思い思いに自由練習をしていた午後〇時四〇分ころ、第三コースにおいて、スタート台から飛び込んだ被告Cの頭部とスタート台の反対側からスタート台側に向けてクロールで泳いでいた原告の頭部が衝突するという事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

本件プールにおいては、同一コースを対向して泳いで来る者との衝突を避けるために、コースの右側を泳ぐべきものとされており、原告や被告Cもそのことは熟知していたが、本件事故発生の時には、原告も被告Cもコースの中央を泳いでいた。

なお、右自由練習中、被告Cは、準専任コーチのF(以下「Fコーチ」という。)の指導の下に、第三コースでスタート台からの飛び込みの練習をしていた(ただし、同被告が最後に飛び込みをした時にもFコーチが立ち会っていたかどうかについては措く。)。

3  原告は、本件事故後、次のとおり通院治療を受けた(甲二〇、乙六ないし九、一六、二二の1ないし32、弁論の全趣旨)。

(一) 平成五年六月二九日から平成七年一〇月一九日まで森外科胃腸科(実日数三二四日) 治療費 三万三三五八円

(二) 平成五年八月六日から平成八年一二月末日まで元町鍼灸院(実日数四九〇日)

治療費 三八八万九〇〇〇円

(三) 平成六年一月二五日から平成七年八月三一日まで順天堂大学医学部附属順天堂医院(実日数四日) 治療費 六万八一〇〇円

(四) 平成七年九月一三日から同年一〇月九日まで北里大学病院(実日数三日)

(五) 平成七年一〇月一六日から同年一一月一六日まで淵野辺総合病院(実日数二日)

(六) 平成七年一〇月二〇日から平成八年一月一二日まで北里大学東病院(実日数五日) (四)ないし(六)の治療費 一八万六三三六円

以上合計 四一七万六七九四円

4  被告会社は、本件について、原告の治療費計四一七万四九五四円(右3の治療費のうち、(三)中の一八四〇円を除くその余のもの)を代払いするとともに、原告に通院交通費として計三七万〇〇九〇円を支払うことによって、原告に対し損害の填補として四五四万五〇四四円を支払った(弁論の全趣旨)。

二  原告の主張

1  本件事故の態様

(一) 原告は、前記自由練習において、第一、第二コースのスタート台の反対側でクイックターンの練習をした後、午後〇時四〇分ころ、残り五分で二〇〇メートル自由形の練習をするため、第三コースに移動した上、スタート台の反対側からスタート台側に向けてクロールで泳ぎ出したが、スタート台から五メートルのライン(以下「五メートルライン」という。)付近まで泳いだ時、突然、左前頭部に被告Cの頭頂部が下から突き上げるように激しい勢いでぶつかってきた。

原告は、右のとおりクロールで泳ぎ出す時、第三コースにはスタート台の後ろに二人ぐらいの者が立って話をしているだけであることを確認し、泳ぎ出してからも、目線を前方に置いて、約五メートル先まで誰もいないことを確認しながら泳いでいた。そうであるにもかかわらず本件事故が発生したのは、次のような事情による。

(二) 本件プールにおいて、飛び込みは、原則として禁止されており(プールサイドに飛び込み禁止の表示があった。)、特定の時間、特定のコースにおいて専任コーチの立会の下に行う場合のみ許されていた。

しかるに、被告Cは、飛び込み禁止の時間帯であるにもかかわらず、飛び込み指導の資格を有しない準専任コーチであるFコーチの立会の下に、飛び込みをした。

しかも、同被告は、原告が同一コースを反対側から対向して泳いで来ていたにもかかわらず、前方を確認しないまま漫然と飛び込んだ。

2  被告Cの責任原因

右1によれば、本件事故は被告Cの過失によって発生したことが明らかである。

よって、同被告は、民法七〇九条に基づいて、原告に対し、本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

3  被告会社の責任原因

被告会社は、原告に対し、本件スクールの入会契約に基づいて、本件プールにおける水泳練習中に事故が発生することのないように、安全配慮をすべき債務を負っていたにもかかわらず、これに違反し、Fコーチをして、飛び込み禁止の時間帯に漫然と被告Cに飛び込みの練習をさせ、そのことにより本件事故を発生させた。

よって、被告会社は、民法四一五条に基づいて、原告に対し、本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

4  原告は、本件事故により、頸椎捻挫、変形性頸椎症、右肩打撲傷等の傷害を受け、前記のとおりの通院治療を受けた後、平成八年一月一二日、四肢腱反射亢進、右上下肢筋力低下、右半身知覚低下、膀胱直腸障害、尿失禁、巧緻障害、第五、第六頸椎間の脊髄圧迫、同頸椎間の狭小化等の頸髄不全損傷の後遺障害を残して症状が固定した。

5  本件事故により原告に生じた損害

(一) 治療関係費 四五四万八六二四円

(1)  治療費 四一七万六七九四円

(2)  通院交通費 三七万一八三〇円

(二) 休業損害 八二五万七六六五円

原告は、主婦として家事労働に従事していたが、本件事故の日である平成五年六月二八日から症状固定の平成八年一月一二日までの九二九日間、家事労働をすることができず、平成六年賃金センサス女子労働者学歴計平均年収額三二四万四四〇〇円の九二九日分八二五万七六六五円の損害を被った。

(三) 傷害慰籍料 二五〇万円

(四) 遺失利益 一一七八万六九〇五円

前記後遺障害は、後遺障害別等級表の第九級第一〇号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当し、その労働能力喪失率は三五パーセントである。

したがって、原告の遺失利益は、前記平均年収三二四万四四〇〇円の三五パーセントに、就労可能年数一五年に対応するライプニッツ係数一〇・三八〇を乗じた金額、すなわち一一七八万六九〇五円である。

(五) 後遺症慰籍料 六四〇万円

(六) 弁護士費用 三五〇万円

(七) 損害の填補 四五四万五〇四四円

三  本件事故の態様、責任原因についての被告らの主張

1  被告Cの主張

(一) 被告Cは、前記自由練習中、Fコーチの指導の下に、第三コースでスタート台からの飛び込みの練習をした。すなわち、スタート台から飛び込み、何度か手を掻いてプールの中央付近まで泳ぐと、立ち上がって反対側まで歩いて進み、プールから上がって、第一コースのプールサイドを回って第三コースのスタート台に戻り、再びスタート台から飛び込むということを三回位繰り返した。その間、原告は第二コースにいたのであり、原告が第三コースにいたことはない。

こうして被告Cが四回目位に飛び込みをした時に本件事故が発生した。同被告は、その時も、スタート台に立ち、第三コースに誰もいないことを確認した上で飛び込んだのであるが、クロールで数回手を掻いてそろそろ立ち上がって歩こうと思った時、原告と衝突した。その衝突場所は、プールのほぼ中央である。

(二) 本件事故が発生したのは、第二コースで練習をしていた原告が、第三コースで被告Cがスタート台からの飛び込みの練習をしているのを知りながら、敢えて第三コースに移動した上、スタート台の反対側からスタート台側に向けて、しかもコースの右側ではなく中央を、前方注視を欠いたまま泳いだためである。

(三) したがって、本件事故の発生は、原告の一方的過失によるものであり、仮にそうでなく被告Cにも過失があるとしても、原告に少なくとも八割の過失がある。

2  被告会社の主張

(一) Fコーチは、前記自由練習中、被告Cのスタート台からの飛び込みの練習に立ち会って指導をしていたが、午後〇時四〇分ころ、「もう終わりましょう」と同被告に声をかけ、プールに背を向けてシャワールームの方へ歩いて行った。その直後に同被告が更に飛び込みをしたものである。

本件事故の態様は、右の点を除くほか、被告C主張のとおりである。

(二) 本件プールでは、飛び込み禁止の看板を掲示しており、飛び込みは、原則として、決まった時間、決まったコースにおいて、コーチの監視の下に行わせていた。

水泳競技大会が近づいているような場合には、クラスの正規の練習で飛び込みの練習をした後の自由練習の時間に、引き続いて、コーチの監視の下に飛び込みの練習をさせることも珍しくなかったが、特に原告らのような上級者のクラスの場合には、そのことにより何ら問題は生じていなかった。

なお、専任コーチと準専任コーチの違いは、被告会社の正社員であるか否かであって、その指導内容や資格に違いはない。現に、Fコーチは、日本水泳連盟公認安全水泳C級ライセンスを取得していたのであり、コーチとしての技術に劣るところはない。

(三) 以上によれば、本件事故の発生は、原告の一方的過失によるもの、あるいは、原告の過失と、「もう終わりましょう」というFコーチの指示を無視して更に飛び込みを続けた被告Cの過失によるものであって、いずれにせよ被告会社に安全配慮義務違反はないというべきである。

仮に被告会社に安全配慮義務違反があるとしても、原告に少なくとも八割の過失がある。

四  損害についての被告らの主張

1  本件事故により、原告に頸椎捻挫が生じたにしても、頸髄不全損傷が生じたとは認められない。

2  仮に頸髄不全損傷が生じたとしても、それは、主として、本件事故前から存在した原告の体質的素因である頸椎椎間板ヘルニアに起因するものである。

また、治療期間が異常に長いこと等からもわかるとおり、原告の症状のうち大部分は、原告の特異な心因的要因によるものである。

したがって、本件の損害賠償額を定めるについては、右のような原告の体質的素因、心因的要因の寄与を斟酌し、少なくとも八割の減額をすべきである。

3  症状固定の時期は、順天堂医院で受診した平成六年一月二五日とみるべきである。

第三当裁判所の判断

一  前記前提事実に証拠(甲八、九、乙一、一〇、丙一、証人Eの証言、原告及び被告C各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨を併せると、以下の事実が認められる。

1  平成五年六月当時、本件プールでは、飛び込みは、原則として禁止されており(プールサイドに飛び込み禁止の表示がされていた。)、コーチの指導、監視の下に特定の時間、特定のコースにおいて行う場合のみ許されていた。もっとも、水泳競技大会が近づいているような場合には、クラスの正規の練習における飛び込みの練習に引き続いて、その後の自由練習の時間に、コーチの指導、監視の下に飛び込みの練習をすることも珍しくなかった。

なお、本件スクールの準専任コーチというのは、会員として専任コーチの指導を受ける一方、他の会員よりも技能に優れ、コーチとしての能力があることから、被告会社の嘱託によりコーチの役割も兼ねている者であり、例えばFコーチは、昭和五八年九月に日本水泳連盟公認二種水泳指導員の資格を、昭和六〇年五月に日本スイミングクラブ協会公認安全水泳C級ライセンスをそれぞれ取得していた。

2  前記自由練習中、被告Cは、Fコーチの指導、監視の下に、第三コースでスタート台からの飛び込みの練習を行い、他方、原告は、第一、第二コースで、スタート台の反対側でクイックターンの練習をするなどしていた。なお、Eは、第二コースで泳いでいた。

原告は、午後〇時四〇分ころ、右のクイックターンの練習を終え、残り五分で二〇〇メートル自由形の練習をしようと思ったが、第一、第二コースには他に泳いでいる者がいる一方、第三コースには、それまで飛び込みの練習をしている者(被告C)がいたものの、その時点では、スタート台付近に二人ぐらいの者が立って話をしているのが見えただけであったため、飛び込みをする者はいないであろうと考えて、第三コースに移動し、スタート台の反対側からスタート台側に向けて、コースの中央をクロールで泳ぎ始めた。

他方、被告Cは、前記のとおりの飛び込みの練習を三回ぐらい行った後の午後〇時四〇分ころ、Fコーチから「もう終わりましょう」と言われたものの、特に飛び込みを禁止されたものとは考えず、引き続き更に飛び込みをしようと思い、それまで第三コースで泳いでいる者はいなかったことから安心して前方の確認を十分にしなかったため、真実はその時既に右のとおり原告が泳ぎ始めていたにもかかわらず、これに気付かないまま飛び込んだ。なお、Fコーチは、被告Cに「もう終わりましょう」と声をかけた後、プールに背を向けてシャワールームの方に歩いて行ったが、同被告はそのことには気付かぬまま飛び込んだ。

こうして、プールの中央付近ないしそれよりもややスタート台に近い場所で本件事故が発生したのであり、原告の左前頭部に被告Cの頭頂部がぶつかった。

なお、Eは、本件事故発生の時の少し前から、第二コースのスタート台の下の水中で立って休んでいたのであり、衝突直前に「危ない」と大きな声を挙げたが、原告及び被告Cには聞こえなかった。

右認定に反して、原告本人は、第三コースで飛び込みをしている者はいなかったとか、衝突場所は五メートルラインの付近であったとして、原告が泳ぎ進んだ時に被告Cが飛び込み、その飛び込み直後に衝突したかのように供述し、また、被告C本人は、コース上に誰もいないことを確認した上で飛び込んだと供述するが、乙一(Eの陳述書)及び証人Eの証言に照らして、いずれも採用することができない。すなわち、Eは右認定に沿う陳述記載及び証言をしているところ、その証言等は、いずれかに偏することなく、原告に有利であるか被告らに有利であるかを問わず、自己の記憶するままを忠実に述べようとする姿勢が顕著であり、かつ、特に客観的証拠に矛盾する点もないことから、十分に信用することができるというべきである。

他に、本件全証拠を検討してみても、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

二  以上の事実に基づいて、本件事故に関する被告らの責任原因について検討する。

1  本件事故の発生について、被告Cに、既に原告が反対側から対向して泳いで来ていたにもかかわらず、前方の確認を十分にしないまま、危険な飛び込みをしたという過失があることは明らかである。

したがって、同被告は、民法七〇九条に基づいて、原告に対し、本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

2  被告会社は、原告に対し、本件スクールの入会契約に基づいて、本件プールにおける水泳練習中に本件のような衝突事故等が発生して傷害を受けることのないように、その安全に配慮すべき義務(債務)を負っていたというべきである。そして、プールにおける飛び込みは他の泳者に対する重大な危険を伴うものであるから、被告会社としては、本件のような自由練習のときにおいても、原告等の他の会員がプールにいる以上、飛び込みはこれらの会員に対して危険が及ばないような方法、態様においてのみ行われるように指導、監視をすべき義務を負っていたというべきである。

しかるに、被告会社の右債務の履行補助者に当たるFコーチは、前記自由練習中、その指導、監視の下に被告Cに飛び込みの練習を三回ぐらい行わせた後、「もう終わりましょう」と言ってその場を離れたというのであり、そのように言われただけでは、本件における被告Cのように、飛び込みが禁止されたとまでは考えず、引き続き更に飛び込みをしようとする者もいることが予想されるところであるから、Fコーチに飛び込みを監視すべき義務を怠った過失があり、被告会社には前記安全配慮義務違反があったというべきである。

したがって、被告会社は、民法四一五条に基づいて、原告に対し、本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

3  他方、本件事故の発生については、原告にも過失があったというべきである。

すなわち、第三コースには、それまで飛び込みの練習をしている者がいたのであるから、たまたまその時点で、スタート台付近に二人ぐらいの者が立って話をしているのが見えただけであったとしても、飛び込みをする者はいないであろうと漫然と考えて、敢えて第二コースから第三コースに移動し、スタート台の反対側からスタート台側に向けて、しかもコースの右側ではなく中央を泳いだというのは、反対側から対向して泳いで来る者(飛び込んだ者を含む。)がいる可能性についての注意を欠くものというべきであり、その原告の不注意も本件事故発生の一因をなしているということができる。

そして、これまでに判示した諸事情を総合考慮すると、本件事故発生についての原告の過失割合は三割とみるのが相当である。

三  損害について

1  前記第二の一3の事実に、証拠(甲二の1ないし4、三、四、八、一〇、一一、一二の1、2、一三ないし一六、一八、乙六ないし九、二二の1ないし32、証人安達公、同熊野潔、原告本人、鑑定の結果)及び弁論の全趣旨を併せると、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

(一) 原告は、昭和一六年一二月一四日生まれ(本件事故当時満五一歳)の女性で、大学教授の夫及び子供と一緒に暮らし、特に病気はなく、家事労働に従事していた。

(二) 原告は、本件事故により、頸椎捻挫、頸髄不全損傷、右肩打撲傷等の傷害を負い、前記のとおり通院治療を受けたが、森外科胃腸科において神経学的診療が行われなかったこともあって長引き、ようやく平成八年一月一二日、頸髄不全損傷による四肢腱反射亢進、右上下肢筋力低下、右上下肢躯幹知覚低下、膀胱直腸障害(尿失禁)、巧緻運動障害(特に右上下肢)等の後遺症を残して症状が固定した。

(三) その間、原告は、思うように家事労働に従事することができず、夫や子供に家事を手伝ってもらった。なお、通院交通費として三七万一八三〇円を要した。

(四) もっとも、前記頸髄不全損傷は、原告が本件事故前から頸椎椎間板ヘルニアであったところに本件事故による外傷が加わって生じたものであり、また、原告は一貫していわゆる不定愁訴が多かったのであって、原告の前記症状には、その心因的要因が少なからず影響している。

2  そして、右によれば、原告に生じた損害の発生、拡大については、その体質的素因及び心因的要因が寄与していると認められ、本件において損害賠償額を定めるについては、民法七二二条二項の規定を類推適用して、右の寄与を斟酌すべきであるところ、これまでに判示した事情に証拠(証人安達公、同熊野潔、鑑定の結果)を併せると、本件で原告に生じた損害のうち四割を減額して損害賠償額を定めるのが相当であると認められる。

3  原告に生じた損害の額は、次のとおりである(ただし、慰籍料及び弁護士費用損害金は後に判断する。)。

(一) 治療関係費 四五四万八六二四円

(1)  治療費 四一七万六七九四円

(2)  通院交通費 三七万一八三〇円

(二) 休業損害 四一二万円

家事労働の五割が不能であったと認め、原告主張の平成六年賃金センサス女子労働者学歴計平均年収額三二四万四四〇〇円を基礎にして、本件事故の日である平成五年六月二八日から症状固定の平成八年一月一二日まで九二九日間の休業損害を算出すると、四一二万円(一万円未満切捨て)となる。

(三) 遺失利益 一一〇一万円

原告の前記後遺障害の程度は、証拠(証人安達公、同熊野潔、鑑定の結果)を併せると、自賠責保険の後遺障害別等級表の第九級一〇号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)に該当し、労働能力喪失率三五パーセントであると認めるのが相当である。

原告は症状固定時の平成八年一月一二日において満五四歳であったから、その遺失利益は、同年賃金センサス女子労働者学歴計平均年収額三三五万一五〇〇円を基礎にして、これの三五パーセントに、就労可能年数一三年に対応するライプニッツ係数九・三九四を乗じた額、すなわち一一〇一万円(一万円未満切捨て)となる。

(四) (一)ないし(三)の合計 一九六七万八六二四円

4  被告らは、右合計一九六七万八六二四円について、そのうちの四割二分(体質的素因及び心因的要因の斟酌による四割の減額をし、更に三割の過失相殺をすることになるから、〇・六×〇・七=〇・四二)である八二六万五〇二二円を賠償すべきことになる。

5  本件事故によって生じた原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる額は、本件に顕れた諸般の事情を総合考慮して、三〇〇万円をもって相当と認める。

7  右4と5の合計は一一二六万五〇二二円であるところ、四五四万五〇四四円の損害の填補があったのであるから、残額は六七一万九九七八円である。

8  本件における弁護士費用損害金は七〇万円をもって相当と認める。

これと右7の残額を合わせると、七四一万九九七八円となる。

四  以上によれば、被告らは、原告に対し、各自七四一万九九七八円及びこれに対する遅延損害金を支払うべき義務があることになる。

遅延損害金の起算日は、被告Cについては不法行為のあった日である平成五年六月二八日であるが、被告会社については、債務不履行による損害賠償請求であるから催告の翌日であるところ、本訴状送達までに催告をしたとの主張はないから、本訴状送達の翌日である平成九年七月九日とせざるを得ない。

よって、原告の本訴請求は、主文第一項の限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 貝阿彌誠)

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